Webアクセシビリティ・ファースト

Web業界やその界隈には、「ファースト」と名の付くフレーズがいろいろあります。

  • モバイル・ファースト
  • ユーザー・ファースト
  • コンテンツ・ファースト
  • コンテキスト・ファースト
  • オフライン・ファースト

どれも間違ってはいないし、それぞれに有意義な考え方。
けれど、Webデザインにおいて、私が何を第一に重視するかと問われれば。

アクセシビリティ

これ以外には考えられません。

かつてWebの創始者、Tim Berners Lee卿は言いました。

The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.

WebがWebであるために必要なこと、それは普遍的であること、誰に対してもアクセシブルであること。誰でも、どんなデバイスからでも、コンテンツにある情報や機能を利用できるということ。
コンテンツがアクセシブルに提供されることで、WebはWeb本来の力を最大限、発揮できるのです。

Webアクセシビリティは、決して障害者や高齢者のため「だけ」に必要なわけじゃない。
Webそのものが、Webデザインが、あるいはWeb業界が、発展し続けるために必要なこと。
もっと大げさに言えば社会が、人類がこの先、進歩し続けるために必要なこと。
だから、経緯や動機はさておき、このサイトにアクセスしてくれたあなたに、どうか理解して欲しい。
Webアクセシビリティが、アクセシブルにWebをデザインするということが、どれほど重要かを。

Web業界で働いている私は今年(2013年)、40歳を迎えました。
その昔、孔子は「論語」のなかで「四十にして惑わず」なんて言葉を残したそうですね。
そういう実感は正直ありませんが、もうしばらくこの業界で頑張るつもりの私は、惑わず言える言葉をみつけました。それが

Webアクセシビリティ・ファースト

微力ながら、この言葉を広める意図で作ったのがこのサイトです。ドメインはa11y1st.jpですが(「a11y」は「accessibility」の省略表記)、「アクセシビリティ」単独では指し示す意味が広いので、「Webの」アクセシビリティを強調する意味で、サブドメインにwebと付けています。

こんなサイトを作ったところで、世の中のほとんどの人には、何の影響も与えないでしょう。
自己満足でしょ?と言われれば、そういう側面は確かにあります。

それでも、一人でも多くの人が、Webアクセシビリティ・ファーストに興味を示してくれたら嬉しい。Webデザインにおいて、何よりまずアクセシビリティが大事だとする考え方を理解してくれたら、もっと嬉しい。
もしあなたが私と同じくWeb業界で働いていて(たとえ他の業界であってもWeb制作に関わっていたり、個人的な趣味でWebサイトを作っているのでも構わない)、Webアクセシビリティ・ファーストに賛同してくれたら、すごく嬉しい。
誰もが使えるWebを一緒に、アクセシビリティ第一で実現していきませんか。

2013年12月 木達 一仁

Web業界で働く皆さんへ

Web業界で働いている皆さんであれば、アクセシビリティという言葉の意味するところは、ご存知でしょう。どれぐらい詳しくご存知かはさておき、もしそれが障害者や高齢者のため「だけ」に必要なものと認識していたなら、今日を境に認識を改めるべきです。
Webの利用者数が右肩上がりで増え続けてきたのみならず、Webへのアクセスに用いられるデバイスは、近年急速に多様化してきました。従来の障害者/高齢者対応という目的に加え、さまざまなデバイスでWebコンテンツを利用可能にする目的において、アクセシビリティの重要性は高まる一方なのです。
言わばアクセシビリティは、マルチデバイス時代において、全てのWebサイトに必ず求められる品質の一つでしょう。

だからと言って、初っ端から完璧主義者を目指す必要は、どこにもありません。Webは、それを構成する技術も、閲覧環境も、利用者も変わり続けます……これまでも、これからも。
アクセシビリティという側面に限らず、Webサイトをデザインするというのは、動く的を射るが如し。
だからこそ、まずは短期的に実現可能なことにフォーカスして、コンテンツをアクセシブルに実装しましょう。
いきなりWCAG 2.0やJIS X 8341-3に準拠することを目標に掲げる必要も、ありません。皆さんの手がけるサイトが昨日よりも今日、今日よりも明日と、少しずつでもアクセシブルになっていくことが重要だと思います。

なかでも基本的な施策、たとえば画像には代替テキストを指定するといったことは、ワークフローに組み込んでしまいましょう。自ずと原稿を作成する段階から、あるいはもっと早くコンテンツを企画する時点から、Webアクセシビリティに留意することになります。
つまり、後付けではなく最初から、デザインの一部としてWebアクセシビリティに取り組むのです。
それが習慣化した暁には、ごく自然に(特別に意識することなく当たり前のように)Webアクセシビリティを確保できるようになるはず。
それこそは、Web業界で働くすべての人に目指して欲しい「あるべき姿」の一つだと、私は考えています。

公的機関のWeb担当者の皆さんへ

アクセシビリティは、基本的に全てのWebサイトに求められる品質ですが、コンテンツの公共性が高ければ尚更です。ですから、公的機関のWebサイトの担当者の皆さんには、是非とも前向きにアクセシビリティに取り組んで欲しいと思います。
なぜ取り組む必要があるのか、より明確な根拠や背景については、スライド「公的機関Webサイトに求められるJIS X 8341-3:2010対応」をご覧ください。障害者基本法、工業標準化法、行政情報の電子的提供に関する基本的考え方、新電子自治体推進指針、電子政府ユーザビリティガイドライン等が挙げられています。

具体的には、総務省の作成したみんなの公共サイト運用モデルに基づき、JIS X 8341-3を活用して取り組むことになるでしょう。
まず、ウェブアクセシビリティ方針を策定することから始めましょう。ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)の提供する、ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドラインが参考になると思います。
策定した方針に従い、コンテンツをアクセシブルにできたら、試験を実施しましょう。試験によって、アクセシビリティの確保がどの程度方針に則って実現できているか、確認するのです。その際、WAICの提供するJIS X 8341-3:2010 試験実施ガイドラインが参考になるはず。試験を終えたら、その結果を公開してください。サイトの利用者にとって、それは貴重な情報となります。

Web業界で働く皆さんに向けたメッセージでも書いたように、完璧主義者になる必要はありません。
何がなんでもJISに「準拠」しなくてはいけないなどということは、無いのです(無論、準拠できたほうが望ましいとは思いますが)。「一部準拠」や「配慮し試験」でも、それはそれで立派な、素晴らしい取り組みであると思います。肝心なのは、Webアクセシビリティの実態を偽り無く公表することです。
準拠を謳っていながら、もし仮に実態が伴っていなければ、利用者に不便や混乱を招く恐れがあります。
また、Webアクセシビリティの確保に明確な終わりはなく、日々の運用を通じて継続的に取り組み、プロセスやカルチャーの一部として組み込むことが大切です。たとえ数年おきに担当者が入れ替わろうとも、教育や何らかの仕組みを通じて、アクセシブルなコンテンツを提供し続けて欲しいと思います。

一般企業のWeb担当者の皆さんへ

Webアクセシビリティは、CSRに積極的だったり、国際的にビジネスを展開している一部の企業のサイトでしか必要ないと思っていませんか。一定以上の規模の、体力のある企業でしか、Webアクセシビリティに必要なコストは捻出できないと思っていませんか。障害者/高齢者は主なターゲットとする利用者ではないから、Webアクセシビリティに取り組まなくても良いと思っていませんか。
その一方で、スマートフォンやタブレットの普及に後押しされて、マルチデバイス対応には熱心だったりしませんか。

たとえレスポンシブWebデザインを採用し「見た目には」マルチデバイス対応ができたとしても、真に多様なデバイスでコンテンツが利用できるかは、アクセシビリティという尺度で確認する必要があります。アクセシビリティを確保することこそ、Webサイトをマルチデバイスに対応させるうえでの基礎であり、土台だからです。結局のところ、コンテンツや企業規模、ターゲットとする利用者の如何に関わらず、今やすべてのWebサイトで一定のアクセシビリティは必須だと思います。

Web制作を外注しているのであれば、RFPでアクセシビリティの確保に言及し、達成すべき品質を業者に明示しましょう。業者からプレゼンテーションを受ける機会があれば、アクセシビリティへの取り組みをどう表現するかに注目しましょう。また、アクセシビリティをしっかり検品できる体制をもった業者を選定しましょう。
アクセシビリティ確保の有無で見積もり金額の開きが大きすぎるような場合、業者のもつナレッジ/スキルに懸念があるかもしれません。もちろん、求めるアクセシビリティ品質次第ではありますが、動画や音声などを含まない静的コンテンツにWCAG 2.0等級Aレベルの品質を求める場合には、極端な隔たりは生じないはずです。疑問に思うところがあれば、アクセシビリティ確保にかかるコストの妥当性を都度確認したり、あるいは別の業者から見積もりを取って比較したりしましょう。

また、自身がWebアクセシビリティ視点から納品物を検収するのに必要な知識を身につけましょう。
Webアクセシビリティがどの程度確保できているかは、コンテンツを視覚的に表示させただけでは把握できず、その確認には一定の知識が必要になります。
もちろん、皆さんがWebデザインの専門家ではない以上、専門家と同等以上の知識を持って検収するのは難しいと思います。それでも、少しずつ必要な知識を習得することで、アクセシビリティ面から出来の善し悪しをある程度判断できるようになりましょう。

そして最終的には、公的機関のWeb担当者の皆さんに向けたメッセージでも書いたように、Webアクセシビリティの確保をお勤めの組織におけるプロセスとカルチャーに組み込んでください。そうして初めて、アクセシビリティ・ファーストなWebサイト運営が持続可能になります。

Web業界で働くことを目指す皆さんへ

Web業界で働くことを目指す皆さんは日頃、Webデザインをどのように学んでいるのでしょうか。
専門学校に通う?書籍を読み漁る?もちろん、さまざまなWebサイトにアクセスしながら独学で、という人もいるでしょう。

専門学校に通っている、ないしこれから通う予定であれば、Webアクセシビリティについて学ぶ機会が無いか、カリキュラムを確認してみてください。もしそのような機会が明記されていないようであれば、学校でちゃんとアクセシビリティを教わることが可能か、問い合わせたほうが良いでしょう。
ツールの使い方などは、極端な話、業界に入ってからでも学べます。それよりもWebとは何か、Webデザインに必要とされる考え方とは何か、特にWebアクセシビリティについて学べるかどうかは、重要だと思います。

完全に手前味噌になりますが、自分が査読協力というかたちで出版に協力させていただいた書籍『デザイニングWebアクセシビリティ』は入門書として最適だと思います。また初学者の人におすすめしたいのは、The Web KANZAKIハンディがあっても利用できるページづくりです。やや障害者や高齢者対応に偏った記述があるとはいえ、WCAG 2.0がコンパクトに分かりやすく解説されています。
WCAG、すなわちWeb Content Accessibility Guidelinesとは、Webのさまざまな標準を策定しているW3Cが勧告した、Webコンテンツについてのガイドラインであり、その最新版がWCAG 2.0です。
勧告自体は2008年12月と古いものの、スマートフォンやタブレットが普及しアクセス手段が多様化した今日においても、その主要な部分は有効とされています。またWCAG 2.0は世界中のさまざまな国や地域で利用されており、日本でもWebアクセシビリティJIS規格、JIS X 8341-3:2010はWCAG 2.0に協調しています。
それだけ、WCAG 2.0を学ぶことは重要で、意義があるということです。もしもWCAG 2.0をじっくり読みたいと思ったら、訳文がウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のサイトで公開されているので、利用してみてください。やや難解に感じられる部分もあると思いますが、関連文書には手を出さずWCAG 2.0そのものに的を絞れば、読みこなすことはできすでしょう。

WCAG 2.0を学ぶほかに、何かアドバイスができるのなら、マークアップ言語をしっかり学びましょう。先に言及したThe Web KANZAKIに、ごく簡単なHTMLの説明というページがありますから、手始めにそこにある内容を一通り読まれることをおすすめします。
同ページは、最新のHTML5にはあまり言及していなかったかと思いますが、HTML 4.01にしろXHTML 1.0にしろHTML5にしろ、根っこにある考え方は同じ。そして、一般的な(HTMLを使って作られる)Webコンテンツであれば、マークアップの善し悪しがアクセシビリティ品質を大きく左右します。
マークアップがいい加減だと、アクセシビリティが確保できず意図した意味や構造が伝わりにくくなるばかりか、スタイルシートやスクリプトの設計にも支障を来します。
そういうわけで、マークアップ言語をしっかり学ぶことはとても大切だと思います。

支援技術を利用してWebにアクセスする皆さんへ

使えないWebサイトに遭遇したことは、ありますか?使いにくいWebサイトに遭遇したことは、ありますか?使えない、ないし使いにくいWebサイトに遭遇したとき、どうしていますか?
コンテンツがアクセシブルに実装されていないせいかもしれませんが、それを判断できるには、Webの専門知識が必要になります。たとえコンテンツに問題が無くとも、ブラウザーに問題があるかもしれません。あるいは、利用している支援技術に問題がある可能性もあります。
問題の所在を切り分けることは難しく、改善を求めようにも、何/どこ/誰に対して求めるべきかは、難しいかもしれません。

大切なのは、まずは「使えない」「使いにくい」という声を上げることではないかと思います。連絡先が分かるようであれば、そのWebサイトを運営している組織なり人に対して。その結果として、コンテンツに問題がないことが分かったならば、次にブラウザーベンダーなり支援技術ベンダーに対して。
もしそのような声を上げにくかったら、私に連絡をいただけませんか。Twitterアカウントの@a11y1stまで、ご連絡ください。すべてのご連絡に対応することは到底不可能ですが、皆さんがWebを快適に利用するためのお手伝いを、少しでもできればという気持ちはあります。
「使えない」「使いにくい」理由がコンテンツにあるかどうかぐらいは、Web業界で働く自分に判断がつくはずです……そもそも、支援技術を利用している前提において、不便に気付かなかったり気付きにくいという状況はあると思いますけれど。

2016年4月からは「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、略称「障害者差別解消法」が施行されます。そうなれば障害当事者の皆さんの声が一層、重要になるはずです。
私は法律の専門家ではありませんが、皆さんの「使えない」「使いにくい」といった指摘の内容が、果たして環境整備や合理的配慮の欠如に該当するかどうかは、個別の裁定に委ねられることでしょう。その結果が判明するまでには、一定の時間を要することにもなるでしょう。しかし「使えない」「使いにくい」Webサイトに対して「使える」よう、「使いやすい」よう改善を期待するには、皆さんの上げる声ほど貴重で意義深いものはありません。

「使えない」「使いにくい」といった類の声を上げるだけでは、ちょっとクレーマーっぽいかもしれませんね。ただ不満を述べるのみならず、最新のWeb技術や支援技術に興味、関心を抱き、可能な限り積極的に学ぶことも同時に必要だと思います。それが最終的には、より効率的、効果的にWebを使いこなすことにつながると思うからです。
たとえばランドマークロールというものをご存知ですか?全てのWebページで利用できるとは限りませんが、より便利にページを操作するための仕様で、支援技術側の対応も進みつつあるのです。
Webが常に進化し続けている以上、それを使う側の知識も、支援技術もまた、アップデートし続ける必要があると思っています。Webアクセシビリティは、コンテンツの側だけで担保できるものでも無いですしね。

作者について

木達 一仁(きだち かずひと)

都内のWeb制作会社で働いています。もう少し詳しい自己紹介個人サイトにあります。
本サイトの内容に関するお問い合わせは、kidachi@kazuhi.toまでお願いします。
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